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川崎市教育委員会「特色ある学校作り」研究推進校
「芸術総合」の取り組み
「芸術総合」<平和>をテーマに
音楽と巨大壁画プロジェクト「キッズ・ゲルニカ」の融合


■ 実践校 ■ 川崎市立向丘中学校
■ 校 長  ■ 操  雅子
■音楽担当■ 松崎りつ子 小幡真理子

はじめに
先日このホームページ"ジジ"の「授業で役立つ情報」で操 雅子先生の
実践を紹介しました。時数の縮減等で課題の多い中、先生の強い信念とすばらしい指導力の積み重ねの成果を芸術総合発表会として公開されました。一丸となった全校体制での見事な取り組みに、生徒一人一人の心は豊かになり見事な表現力を培ってくれました。多数の参加者をはじめ、生徒、そして向丘中学校の先生方すべてが感動に胸を打ち震わせてくれた素晴らしい実践でした。

芸術総合について

芸術教科(音楽・美術)の時間数が減り実際には、ひと月に2〜3時間という非常に少ない時間の中で生徒たちの情操を育まなければならない現実があります。
そこで、我が校独自の「芸術総合」という考え方で、芸術教科を中心に総合的な学習としての活動を推進していく中で自分の考えを深め、より豊かな感受性を養うことを目標に「自分とは何か。人とは何か。平和とは何か。」という問題を深めながら活動をしてきました。主となる活動は、すでに生徒の生活の中に定着しつつある音楽科の全校合唱と美術科の国際子ども巨大壁画プロジェクト「キッズ・ゲルニカ」への参加を考えました。「芸術総合」は音楽科と美術科が一貫して総合的な学習の時間の活動そのものをプロデュースし、そこに他の教科の学習内容を織り込み、深みと豊かさ、いろいろなバリエーションを持たせて行こうと考えたものです。


●取り組み方について
音楽科、美術科ともに共同での取り組み、共同での制作になります。全体でそれぞれ一つの作品を作り上げますが、そこには個々の育みがなくてはなりません。目標を同じとする集団は一つの社会とたとえることができます。一人一人の生徒が、その社会の中でいかに自分の存在を肯定的にとらえられるのかということを大切にした上で、自分にあった取り組みの方法、自分が取り組むべきスタイルや、個々の目標をいかに見据えるかということを大切にしたいと思います。共同での活動が、個性的な育みを見えにくくするのではなく、逆に個々の成長を子どもたちの等身大の社会集団の中で、各自が成長を浮き彫りにできればと考えます。

●テーマについて




一貫するテーマは「平和」です。平和の中で育ち、危機感に乏しい日本社会で、平和という概念を真正面から中学生がとらえることはたやすいことではありません。平和の真只中での平和学習とはどうあるべきなのか。今回は、見えにくい戦争に対する平和という概念を発信することにこだわりませんでした。学習テーマとする内容は、平和な生き方や、考え方のメッセージを発信することであったり、自分を肯定的に見つめる目や自分とは違った価値観をもつ異文化に対する理解力などであったりします。音楽科の合唱からのアプローチもテーマを「平和」とし、一つ一つのことばやハーモニーを大切に、国や文化を超えて大切にしていこうとするものを合唱の歌詞と曲にのせて歌い上げます。美術科からのアプローチは「キッズ・ゲルニカ」プロジェクトの参加です。ピカソが戦争への怒りを込め平和のメッセージを託した作品と同じ大きさの絵(349,3×776,6cm)を全校で3枚仕上げます。それを国際展示会に送り、世界へメッセージを発信することとする考えです。自分たちが平和な社会を望む仲間なのだというプライドを持ちつつ、そもそも平和って何が大切なのだといった大きな意味での平和な生き方そのものを見つめ、深めようとする活動を目標にして行ければと思います。

●学習のスタイル

@一年生から三年生までの三学年一クラスずつが一緒に学習し、子どもたちは自らリーダーを中心に主体的な取り組みをしてきた。複数の先生と様々な角度からの平和についての学習を行い、活動の中で生まれる様々な疑問に対して一人一人各教科の視点からの考え方や新しい知識を教わって、さらに自分の考えを深める。   
学習形態を構築する上で、3学年いっしょの学習は、三年生は下級生といっしょの活動のために、上級生としての自覚を持ちながら学習を深めます。下級生は上級生の探究心に刺激を受け、無意識に自分たちの学習レベルを上げていく様子を感じ取ることができた。





A学習の取り組み
音楽の活動では自分たちが歌う歌詞の内容を調べ、深く味わう体験をした。心に訴えてくる詩を国語の先生とともに考える。その上で深みのある合唱を作り上げた。
美術の活動のキッズ・ゲルニカプロジェクトではピカソが戦争への怒りを込め平和のメッセージを託した作品「ゲルニカ」(349,3×776,6cm)と同じ大きさの絵を自分たちの絵で創りあげ、全校で3枚仕上げた。それを国際展示会に送り、世界へのメッセージとして発信しようと企画した。文化も様々で、日本語の通じない国の人にどうしたら自分たちの「思い」を絵に載せて伝えることができるのか。具体的なテーマに沿って各教科の先生の授業を織り込みながら多角的な迫り方をする。子どもたちの等身大の学習を「国際子ども巨大壁画プロジェクト『キッズ・ゲルニカ』への参加」を通して世界へ発信する活動に発展させ、自分たちの学習が世界に広がっていくという、大きな夢の持てる取り組みにした。




音楽の合唱活動をとおして


1、生徒の変容
曜日で分けられた全体のリーダーを中心に各パートとも3年生がリーダーとなって取り組んできた。1年生から3年生と各学年が合同で取り組む今回の芸術総合のスタイルには、はじめはお互いにぎこちなさが目立ったが、次第に慣れ、となりで歌ったり歌う位置が変わったりすることにも抵抗がなくなり、刺激し合いながら、学習し会うよい関係をつくっていけたようである。
歌の内容面では、国語科や社会科の先生方からの資料や説明により、歌詞の真髄に迫ることが可能となり、主題を追及し始める学習の深まりから、生徒たちの歌う姿が今まで以上に自信に満ち、表現を主体化する学習の深化から、迫力ある表現となった。
特に原爆について歌われている「消えた八月」では、「僕は影になった 君は物になった」と、繰り返し歌われている部分を実際の映像や被爆者の方の絵を見て、始めショックを受けていた生徒もいたようだ。全体として歌に対する思いが自己の内面でイメージを膨らませ問題を明確化する学習を進めることで、更に強くなったようである。その思いが表現したいという気持ちに変わり、歌声や表情にも内面からの変容を感じ取ることができた。

【Tさんの感想から】
「歌詞の意味を知った時、すごくショックでした。平和な日本にこんなことがあったなんて…。戦争がなくなるために私たちが今出来ること、そこから始めたいと思い、芸術総合に取り組んでいます。」


2、集団での取り組みの工夫
・ 同時展開での音取りをしたことで多人数での活動を可能にした。
・ リーダー(コンサートマスター)を中心に発声練習・音取りを行った。
・ 音程が不安定な生徒の隣りへ上級生をつけたことで、下級生は歌いやすい環境となり、上級生は自信が付くことで自分の力となった。
・ 1年生と2年生を、2年生と3年生を交互に並べることにより、曲中の出ない音域をカバーした。   
(@1年 A2年 B3年)
@A@A@A@A@A@A   ABABABABABAB  
クラスの並び順を基本にし、間にはいるように交互になる。


3年○○○○   2年○○○○   1年○○○○
2年○○○○ → 1年○○○○ → 2年○○○○
1年○○○○   3年○○○○   3年○○○○


上の図のように学年の列を変えるだけでも、練習での緊張感を保つことができ、
環境の変化で生徒の気持ちをひきつけるのに役立った。


3、3学年での取り組み
行事や部活動以外で、3学年が同じ場所で同じ目的を持って活動することがはじめてであったにもかかわらず、こちらの心配をよそに、生徒たちは活発に活動してくれた。はじめこそぎこちなさが見えたが、下級生は上級生のリーダーに引っ張られながらも大曲を歌いこなし、上級生は下級生に教え、見本になることで自信が付き、そのことが自分の力となったようである。3学年ともそれぞれに成長が見られた。
また、1・2年生の音色に変化があった。上級生と歌うことで正しい音程を知り、深みのある良い声質を聴くことにより例年以上の声質の成長が感じられた。


4、音楽活動の1年間の流れ
4月 チーム編制・※曲の決定・リーダーの育成
5月 全校合唱曲練習
6・7月 チーム曲練習(音取り)・担任の先生方の平和感や感想など
9・10月 チーム曲練習(表現づけ)・国語科からの詩の解釈や関連資料の提供・社会科からの資料提供、説明
11・12月 チーム曲練習(パートごとの練習・表現づけ) 2年生リーダ−の育成
1・2月 チーム合同練習
3月 発表にむけての全体練習
※曲の決定について
曲の決定は、平和のテーマに合わせ教師側で選定した。
※練習期間について
1ヶ月平均1・2回の練習回数、音楽と美術が隔週交代ということもあったので、休日などを挟むとかなりの期間あいてまった。
そのことにより、前回の授業でやったことがなかなか定着しないことが難点であった。
しかし、逆に長い期間にも関わらず、1曲を集中して歌うことはできた。


5、取り組みの難しさ
・選曲の問題 
今年度は3年生に合わせた曲にしたので、かなりの大曲となり下級生たちはかなり苦労していた。
・曲作り
大曲、難曲を選んだことで全体を仕上げるのに難しさがあった。
・時間的な問題
我が校の取り組みでは、美術、音楽ともに全生徒に関わらせる方法を取ったので、音楽のみの年間時間数は7・8時間となり時間的に苦しかった。

6、発表の様子
・吹奏楽部の演奏と全校合唱で参加者を




イメージ映像をアンサンブルで

詩の朗読

各チームの絵と合唱の披露

・最後の全校合唱

7、おわりに
今回の実践は授業時数の縮減等様々な課題が山積しているなかで、総合的な学習の時間の内容をも含めた音楽科経営的な視点からも大変参考になる実践していて高く評価されています。
操 先生からは「特色ある学校作り」の1つの実践として今後も引き続き研究をしていきたいと話されておりました。

川崎市立向丘中学校
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